📋 この記事でわかること
  • 「黒字か赤字か」だけでは経営状態がわからない理由
  • 事業活動収支計算書の見るべきポイント
  • 貸借対照表の純資産の中身
  • 資金収支計算書との違い
  • 基本金の構成、第4号基本金相当の資金の有無

学校法人の決算書を見て、「今年は黒字だったから安心」「赤字だったから心配」と、収支差額の一つの数字だけで判断していないでしょうか。学校法人の決算書には、株式会社の決算書とは異なる、独特の構造があります。今日は、経営状態を正しく読み取るための、5つのチェックポイントを整理します。

①事業活動収支計算書:「収支差額」は1つではない

学校法人会計基準第28条では、事業活動収支計算書に、次の収支差額を順番に記載することとされています。

収支差額内容
経常収支差額教育活動収支+教育活動外収支
基本金組入前当年度収支差額経常収支差額+特別収支
当年度収支差額基本金組入前当年度収支差額-基本金組入額

ここが、学校法人の決算書を読むうえで、最初に押さえておきたいポイントです。「基本金組入前」の収支差額と、「当年度収支差額」(基本金組入後)は、別の数字です。基本金組入前は黒字でも、その年に多額の基本金組入れ(新校舎の取得など)を行うと、当年度収支差額はマイナスになることがあります。逆に言えば、当年度収支差額がマイナスだからといって、教育活動そのものが不振とは限りません。

⚠️ 「赤字」の中身を見る

当年度収支差額がマイナスの場合、それが「経常収支差額」の段階からマイナスなのか、「基本金組入れ」によってマイナスになっているのかで、意味がまったく異なります。前者は教育活動そのものの収支が悪化している可能性があり、後者は積極的な設備投資の結果である可能性があります。どちらの収支差額を見ているのか、意識することが大切です。

②貸借対照表:純資産の中身を分けて見る

学校法人の貸借対照表は、純資産の部が「基本金」「繰越収支差額」に分かれています。基本金は、前回の記事で解説した通り、教育研究活動を継続するために保持すべき資産を表すもので、現金として自由に使えるわけではありません。純資産の総額だけを見て「財産が多い」と判断するのではなく、そのうち基本金がどれだけを占めているかを確認することが重要です。

③資金収支計算書:現金の動きを見る

事業活動収支計算書が「収入・支出の内容」を表すのに対し、資金収支計算書は支払資金(現金及びいつでも引き出すことができる預貯金)の収入・支出のてん末を表します。事業活動収支計算書上は黒字でも、未収入金が多ければ、実際の資金繰りは厳しいということもあり得ます。決算の数字と、実際の資金繰りは、必ずしも一致しないことを念頭に置いておく必要があります。

④基本金の構成:何号がどれだけあるか

基本金の内訳(第1号〜第4号)を見ると、その学校法人が、どのような性格の資産を、どのくらいの規模で保持しているかが見えてきます。第1号基本金が大きければ、すでに相応の固定資産を保有していることになりますし、第2号・第3号が大きければ、将来の投資や基金運用に計画的な資金を割り当てていることになります。

⑤第4号基本金相当の資金があるか

前回の記事で解説した通り、第4号基本金は、年間の経常的な支出のおおむね1か月分に相当する、恒常的に保持すべき運転資金です。学校法人会計基準第40条第7号では、会計年度末において第4号基本金に相当する資金を有していない場合、その旨と、資金を確保するための対策を、計算書類に注記することが求められています。

この注記があるかどうか、あるいは注記の内容がどうなっているかは、その学校法人が、日常的な資金繰りの面でどれだけ余力を持っているかを確認する、実務的に重要な手がかりになります。

まとめ

学校法人の決算書は、「黒字か赤字か」という単純な二択では、経営状態を正しく読み取れません。事業活動収支計算書の複数の収支差額、貸借対照表の純資産の中身、資金収支計算書との違い、基本金の構成、そして第4号基本金相当の資金の有無——これらを合わせて見ることで、初めて、その学校法人の財政・経営の実態が見えてきます。

※ 本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。制度の詳細については、必ず最新の文部科学省の資料をご確認ください。
【参考】