- 持分あり医療法人と、持分なし医療法人の違い
- 持分あり医療法人が抱える、構造的なリスク
- 認定医療法人制度の仕組みと、移行のメリット
- 移行後も続く、6年間の運営要件
- 制度の期限と、今から検討すべき理由
持分あり医療法人と、持分なし医療法人の違い
医療法人には、大きく分けて「持分あり」と「持分なし」の2つの形態があります。持分あり医療法人は、出資者が法人に対する財産権(出資持分)を持つ形態です。出資者が退社する際、あるいは相続が発生した際、この出資持分に応じた払戻しを法人に請求できます。
一方、持分なし医療法人には、この財産権そのものが存在しません。平成19年の医療法改正以降、新規に設立できる医療法人は、原則としてすべて持分なし医療法人です。それ以前に設立された、持分あり医療法人は、現在も数多く存続しています。
持分あり医療法人が抱える、構造的なリスク
持分あり医療法人の出資持分は、財産権である以上、出資者に相続が発生すれば、相続財産として評価され、相続税の課税対象になります。出資持分の評価は、取引相場のない株式の評価に準じて行われます。法人の規模等に応じて、類似業種比準方式や純資産価額方式、またはこれらを併用して評価します。利益や純資産が長年蓄積している医療法人では、出資持分の評価額が高額になることがあります。
医療法人は、剰余金の配当が禁止されています。法人にどれだけ資産があっても、相続人はそこから直接、相続税の納税資金を引き出すことができません。相続人が個人の資産で納めるか、法人に出資持分の払戻しを請求するか、いずれも大きな負担を伴います。払戻しを求められた法人は、現金を用意できなければ、借入や資産売却を迫られ、経営そのものが立ち行かなくなることもあります。
認定医療法人制度とは
持分の放棄によって、医療法人や他の出資者に経済的利益が生じる場合、一定の要件のもとで贈与税が問題となることがあります。こうした税負担を軽減し、持分なし医療法人への移行を促進するために設けられているのが、認定医療法人制度です。
厚生労働大臣による移行計画の認定を受け、所定の要件を満たして持分なし医療法人へ移行することで、持分放棄に伴う贈与税・相続税について、納税猶予や免除などの税制上の特例を受けることができます。相続が発生した後でも、一定の要件のもと、相続税の申告期限までに移行計画の認定を受けることで、納税猶予の特例を利用できる場合があります。
移行後も続く、6年間の運営要件
移行して終わりではない、という点には注意が必要です。移行完了後も6年間にわたり、所定の運営要件を満たす必要があり、その間、厚生労働大臣への運営状況の報告が求められます。
- 役員やその親族への特別な利益供与がないこと
- 役員報酬が不当に高額でないこと
- 営利法人への特別利益供与がないこと
- 遊休財産が事業規模に照らして過大でないこと
- 法令違反がないこと
認定時だけ要件を満たせばよいわけではなく、移行後も継続して適正な運営が求められる点には注意が必要です。要件を満たさなくなった場合、認定が取り消され、猶予・非課税だった税負担が発生する可能性があります。移行後の運営まで含めて、設計しておくことが必要です。
制度の期限と、今から検討すべき理由
この制度には、申請期限があります。現時点では、令和11年12月31日までに移行計画の認定を受ける必要があります。期限は、これまで延長を繰り返してきた経緯がありますが、いつまでも続く制度ではありません。
令和11年12月31日は、「持分なし医療法人への移行を完了する期限」ではなく、「移行計画の認定を受ける期限」です。認定後は、認定を受けた日から5年以内の移行期限を定め、その期限までに持分なし医療法人へ移行します。混同しやすい点ですので、ご注意ください。
移行を検討する際には、現在の出資持分の評価額を把握するとともに、理事長の退任時期や適正な役員退職慰労金の支給、事業承継なども含めて、中長期的に検討することが重要です。
まとめ
持分あり医療法人を経営されている先生にとって、認定医療法人制度は、相続をめぐる構造的なリスクを解消する、有力な選択肢です。ただし、持分なし医療法人へ移行すれば、これまで出資者が有していた出資持分という財産権を手放すことになります。出資持分という財産権をご家族に承継したいというお考えがあれば、慎重な判断が必要です。
- 持分あり医療法人には、相続財産の評価と、納税資金という2つの構造的リスクがある
- 認定医療法人制度では、一定の要件を満たすことで、持分なし医療法人への移行に伴う相続税・贈与税について納税猶予や免除等の特例を受けられる
- 移行後も6年間、運営要件の維持と報告が必要
- 移行計画の認定期限は現在、令和11年12月31日。認定後は認定の日から5年以内に移行する
- まずは、自院の出資持分の評価額を把握することが出発点